臓器移植Q&A

臓器移植全般臓器移植全般

移植について

臓器移植とは何ですか?
臓器移植とは、臓器が障害されて機能を失い、そのままでは生命が危ぶまれたり、生活に非常に支障がでたりするようなときに、他の人からその臓器を提供してもらって快復を図る医療です。

移植手術時にレシピエント(臓器を受ける人)の障害された臓器を摘出して、ドナー(臓器を提供する人)の臓器を同じ場所に移植することを同所性臓器移植といい、心臓、肺、肝臓、小腸などの移植で行われます。
一方、膵臓や腎臓の移植では、レシピエントの障害された臓器を残したままで、別の場所にドナーの臓器を移植するので異所性臓器移植といいます。
どのような臓器が移植できるのですか?
多くの臓器が移植可能ですが、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、小腸の移植が一般的です。それぞれの臓器移植については各項目を参照してください。
移植手術例数としては、腎臓、肝臓、肺、心臓、膵臓、小腸の順になります。また、膵臓に関しては、インスリンを分泌する膵島のみを分離して移植する「膵島移植」もあり、本来の意味では臓器移植とは異なりますが、このQ&Aでは解説していますので、参照してください。
「膵臓」の膵島移植とはをご参照ください。

患者さんによっては、心臓と肺、膵臓と腎臓、肝臓と腎臓、肝臓と小腸など、2つ以上の臓器を同時に移植しないといけない方もいます。
海外では子宮、顔面、腕などの移植の報告(2020臓器移植ファクトブック Ⅸ.移植の国際状況 4.移植医療の新しい分野)がありますが、非常に少数であり、現時点では日本においては行われていません。
臓器移植にはどのような種類がありますか?

ドナーの状態に応じて、以下のような種類があります。

  1. 死体臓器移植
    亡くなった方から臓器の提供を受けて移植を行います。脳死の方から提供される場合(脳死下臓器提供)と、心臓が停止した後に提供される場合(心停止後臓器提供)があります。
    なお、移植医療では「死体」という言葉は亡くなった方への尊厳を守るという観点から、最近はあまり使われなくなっています。英語でも以前はcadaver(屍体)という単語が使われていましたが、近年はdeceased(故人)という単語が使われます。ただ、適切な日本語がないのでここでは「死体」という言葉を使います。腎移植では「死体腎移植」ではなく「献腎移植」といわれます。
  2. 生体臓器移植
    生きている健康な方(多くはご家族の方)から臓器の提供を受けて移植を行います。
    現在、日本では、以下のような臓器移植が行われています。
      心臓 心肺 肝臓 肝腎同時 肝小腸同時 膵臓 膵腎同時 腎臓 小腸
    脳死下臓器移植
    心停止後臓器移植
    生体臓器移植

    すでに医療保険の適用になっているもの

どのような方から臓器を提供していただくのですか?
すでに死亡された方から、臓器を採取して移植することを死体臓器移植、生きている健康な方(多くは家族)の臓器を採取して移植することを生体臓器移植といいます。

死体臓器移植の中でも、脳死になった方から頂いた臓器を移植することを脳死下臓器移植といいます。心臓を含め、多くの臓器を移植することが可能です。
心臓停止後のご遺体から臓器を頂くことも可能ですが、現実には腎臓のみの提供になります。提供臓器不足を補うため、肝臓なども心臓停止後の提供による移植が海外では行われはじめていますが、臓器保護のための処置が必要であり、現時点で日本では行われていません。

一方、生体臓器移植は、生きている健康な方から臓器を頂かなくてはなりませんので、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸などは部分移植が可能(腎臓は2つあるうちの1つ)です。
生体臓器移植の場合、肝臓、腎臓、膵臓、小腸は1人のドナーからの移植が多いですが、肺は多くの場合、2人のドナーが必要です。
※現在、生体膵移植はほとんど行われていません。

生体ドナーの場合、肝臓は残りの部分から再生します。小腸は残存腸管が機能を補うようになりますが、肺、腎臓、膵臓は摘出した分だけ生体ドナーの臓器機能は低下するので、医学的にも問題があることがありえます。肝臓でも採取部分が大きすぎればドナーが肝不全になる危険性があり、小腸でも大量切除すると腸管不全になるので、切除部分を一定以下に留める必要があります。残念ながら我が国では死体ドナーの数が少ないので、欧米に比べて生体臓器移植の割合が非常に高くなっています。
どのようにすれば死体臓器移植を受けられるのですか?
我が国で死体臓器移植を受けるためには、日本臓器移植ネットワーク(JOT)にその臓器の移植希望者として登録しなければなりません。 現在の登録状況や臓器提供のデータは日本臓器移植ネットワークのホームページに掲載されています。日本臓器移植ネットワークには、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、小腸の移植希望者が登録されています。
腎臓移植を希望する人は、その人が通院して腎臓を診てもらっている施設や透析施設から移植施設に申し出て登録します。登録方法は日本臓器移植ネットワークや移植施設にお問い合わせください。
その他の臓器は、現在診てもらっている医師に移植施設を紹介してもらい、移植施設でその臓器の移植が必要かどうかを検討してもらいます。その結果、臓器移植が必要と判定された場合に、その移植施設から日本循環器学会、日本肝臓学会などの関連学会の適応評価検討委員会に移植適応の評価を依頼してもらいます。その結果、移植が必要と判定された患者さんが日本臓器移植ネットワーク本部に登録されます。
いずれの場合にも、移植施設の医師に、なぜ移植が必要なのか、どのような移植が必要なのか、移植の後どうなるのかなどについて、しっかり話を聞き、ご家族とも十分に話し合った上で、登録してください。

残念ながら、世界各国に比べて日本では亡くなられた方からの臓器提供が著しく少ないのが現状です。そのため、登録後になかなか移植が受けられず、長期間の待機を強いられることが多く、中には臓器移植を受けられずにお亡くなりになってしまう方が少なくないのが現実です。そのため、かつては臓器を求めて海外に渡り、移植を受ける方がいらっしゃいましたが、現在は一部の例外的な臓器移植を除いてほとんどできなくなっています。また、金銭の授受により移植を受ける(海外も含めて)こと、臓器売買は国際的にも厳しく規制され、日本の法律も適応され罰則が適用されます。

なお、臓器移植を受けるための登録と別に、もし万が一、ご自分が脳死になり救命ができない状態になった場合に臓器提供をしたいという意思がある方は、ご自身の運転免許証、保険証、マイナンバーカードに意思を記載しておくことをお勧めします。また、その意思について日本臓器移植ネットワークに登録しておくことができます。これについては「臓器提供をしたくない」、という意思表明もすることができます。これらの意思表示は非常に大切ですが、きちんと考え、それをご家族と話し合っておくことが重要です。詳しくは日本臓器移植ネットワークのホームページをご確認ください。
どのようにすれば生体臓器移植を受けられるのですか?
生体臓器移植は日本臓器移植ネットワークに登録する必要はありません。また、日本循環器学会、日本肝臓学会などの関連学会の適応評価検討委員会の審査を受ける必要もなく、移植施設で移植が必要と判定されれば、受けることができます。

したがって、現在診てもらっている医師に移植施設を紹介してもらい、移植施設でその臓器の移植が必要か、可能かどうかを検討してもらいます。その結果、臓器移植が必要で可能と判定された場合に、移植を受けることができます。
ただし、臓器を提供していただけるドナーが必要です。そして、生体ドナーの方がそのリスクを十分に理解し、自発的に臓器を提供すること、医学的に臓器提供が可能である必要があります。生体ドナーは大きな手術を受けて臓器の一部(腎臓では片方の腎臓)を提供していただきますので、移植後は臓器機能が低下し、手術そのものにもリスクを伴います。これらの理由により、生体移植より死体移植が本来の移植医療のあるべき姿ですが、ドナー不足のため、生体移植が行われています。生体ドナー保護のため、それぞれの臓器で生体ドナーとしての適格性のガイドラインが出されています。
血液型が違っても移植はできるのでしょうか?
血液型が違っても臓器移植はできます。2019年現在で、腎移植は5,200例以上、肝臓移植は1,240例以上が行われており、最近では膵臓移植でも始められています。

血液型が「A→O、B→O、AB→O、AB→A、AB→B、A→B、B→A」の場合の移植を「血液型不適合移植」といいます。これらは輸血ができない組み合わせですが、移植はできます。「O→B、O→A、O→AB、A→AB、B→AB」の場合の移植を「血液型不一致移植」といいます。これは各血液型がどの抗体を持っているかによって区別されます。血液型不一致移植の方法は、血液型が一致した移植とほとんど変わりません。
問題は血液型不適合移植です。血液型A型の人は抗B抗体を、血液型B型の人は抗A抗体を、そして血液型O型の人は抗A抗体、抗B抗体の両方を持っています。そのため、B型の人の抗A抗体はA型の臓器と反応して抗原抗体反応による拒絶反応を起こし、臓器を著しく障害します。これを防ぐため、この抗体を除去し、その産生を抑える必要がありますが、そのための治療法が確立されており、一定期間抗体を抑えることにより、血液型不適合移植が可能になりました。血液型不適合移植では抗体を一定期間抑えればその後は問題が起きません。
以前は、血液型不適合移植は、移植直後の血液型抗体が関連する拒絶反応のために移植の成績は不良で、行わないこととしていました。しかし1980年台になり、移植前に免疫抑制薬の長期服用、特殊な免疫抑制薬の使用、また移植直前に特殊な血液浄化治療と薬の投与をすることにより、問題なく移植ができるようになり、移植後の成績もとても良くなっています。最近では血液型不適合の夫婦間(非血縁)腎移植も盛んに行われるようになっており、生体腎移植では配偶者間の移植が一番多くなっています。
血液型が違っても臓器移植はできます

執筆:吉田 一成・湯沢 賢治

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