理事長挨拶

理事長 江川 裕人
理事長 江川 裕人

はじめに

2019年10月に新執行部が始動しました。2019年夏に会則を変更し理事の任期上限を2期から3期へ延長しました。2015年からの4年間でようやくインフラが整い様々な取り組みが結果を出し始めたところですので、基本、前執行部の理事に残っていただき前回の執行部で尽力いただいた幹事を新たに理事としてお迎えしました。この執行部のミッションは「未来へ向けての地固め」です。次期の執行部に円滑に移行できるように、次期に理事になる先生方に幹事として参画いただきました。
我々のビジョンは、「臓器不全患者さんが移植を受け安心して人生を全うできる社会づくり」です。そのためのストラテジーは、移植へのアクセス整備、臓器提供環境整備、医療技術革新、人材育成、社会インフラ整備です。そのためのタクティクスを担う組織として、委員会の統廃合と創出を行い今期は25の委員会、5つのアドホック委員会、一つの合同員会、と移植選択基準変更などに必要な行政とのパイプ役を任務とする「施策推進連絡室」を設置しました。また、2020年3月に新型コロナウイルス対策委員会(アドホック)を設置しました。ほぼ2週に一回webで開催され、基本指針やメッセージの発信に尽力しています。

委員会活動について

総務、財務、学術・教育、トランスレーショナルリサーチ、登録、保険診療、広報、認定医制度、倫理、編集、医療標準化・移植検査、国際戦略、人材育成、将来体制整備、利益相反、臓器提供普及啓発、男女共同参画、生体ドナー安全、医療安全、会則検討が、学会の基盤業務を担っています。この中で安全委員会は、医療事故発生時調査時の関連学会協力をする基盤業務に加えて、「患者から見た安全な移植医療マニュアル(全臓器)作成」というミッションが加わりました。パターナリズムによる医療は過去のものとなり、患者も医療のパートナーとして医療者を理解することが大切という考えに立ったマニュアルです。メディエーターの先生にも参画いただきます。おそらくこういった路線の出版物を医療者側から作成するのは医学史上初めての構想だと思います。
今期から新たな4つの委員会と5つのアドホック委員会ができました。
Transplant Physician委員会は、術前評価、適応決定、周術期管理、慢性期管理ができる移植内科医を育成し、その研究会を立ち上げ移植内科学として体系化することを目的としています。今後移植が増え、移植成績が向上し、長期生存者が増える中で外科医が管理するシステムには限界がある。外科医が外科医らしく活躍し、内科が本来の能力を発揮するための委員会です。令和2年採択のAMED江川班「遺伝子関連情報を基軸にした効率的免疫抑制管理による革新的長期管理ロジック開発」の研究課題の一つになっています。
働き方改革委員会は、単なる外科医の働き方改革ではなく、脳死下・心停止後移植に関わる医療者の勤務・就労管理の実態調査、摘出任務中の事故対応や給与・時間外手当実態調査を通して病院管理者や行政へ提言することを目的としています。
レシピエントコーディネーター委員会は、これまではRTC認定合同員会委員に委員を派遣するだけでしたが、レシピエントコーディネーターが全ての移植施設に設置されるよう施設要件化や資格制度化も含めて移植施設と行政に働きかけることを目的としました。
脳死・心停止リカバリー環境改善委員会は、アドホック委員会であったものを名前を修正し正式な委員会としました。持続可能な移植医療をめざし、摘出手術互助制度、臓器搬送業者導入、提供施設スタッフによるドナー管理推進など移植医負担軽減策を進め、動物や遺体による脳死摘出手技標準化・教育を進めています。これらの活動は臓器提供関連の厚労科研の分担研究の形をとっています。今回の新型コロナ感染予防策の一つとして、提供施設の近隣移植施設から摘出チームを送ることで移動人数、距離を小さくし感染曝露の機会を減らす試みに役立っています。
日本臓器移植ネットワーク委員会は、これまで以上に日本臓器移植ネットワークとの連携を深めるために日本移植学会から推薦したJOTの理事で構成されています。 心停止後提供推進委員会は、まずアドホックとして立ち上げました。脳死下提供が進まない日本ですが、増加した脳死下提供が頭打ちになった時に備えて心停止後提供をめぐる課題に取り組んでおくことが大切です。また、海外では技術革新により腎臓と膵臓だけでなく肝臓、心臓、肺も心停止後ドナーから提供可能となっていますので今から体制づくりと法整備を準備することが必要です。Machine Perfusion委員会はここから派生します。
臓器提供となりうる患者の家族負担軽減委員会は、現在ややもすると、臓器提供となりうる患者の家族は、臓器、組織、角膜と3名のコーディネーターからそれぞれの説明を聞くことになり悲嘆にくれる家族に大きな負担となっています。これを解消するために、一回の説明で完結できる3領域の斡旋権を備えたコーディネーターを育成することを目的とします。その教育、資格化、診療報酬化までミッションに含まれます。組織移植学会とJOTとJATCOと共同で進めます。
移植医のための臓器リカバリーハンドブック作成合同委員会は、令和元年度厚生労働科学研究費補助金(移植医療基盤整備研究事業)「5類型施設における効率的な臓器・組織の提供体制構築に資する研究-ドナー評価・管理と術中管理体制の新たな体制構築に向けて-」嶋津班江川分担班の事業として、医療標準化委員会委員長の指揮のもと、脳死・心停止リカバリー環境改善委員会と心停止後提供推進委員会が合同で取り組みます。本のタイトルは「脳死下・心停止後ドナー手術ハンドブック」です。脳死下提供と心停止後提供の両方の現場での、移植医の来院時挨拶から出発までの、摘出手術手技から、手術機器共用、互助、業者機器搬送などの移植医・提供施設の負担軽減のための工夫などを含みます。
施策推進連絡室は、これまで、各臓器の学会や研究会がそれぞれ異なる時期に移植対策推進室の要望を出しその都度、作業班、臓器移植委員会、局長通知という作業をしていたものを、各臓器の要望を同時期に募集して取りまとめて形式を整え一括して推進室に提出することで、移植側の要望を円滑に実現する組織です。ここには移植対策推進室の勤務経験のある伊藤孝司先生、蔵満薫先生、曽山明彦先生が担当されます。

臓器提供について

現在、移植手術から長期管理までの革新的取り組みは着々と進んでいますが、臓器提供がなければ何も始まりません。若い世代の日本人の臓器提供への積極的関心が高まる中、2015年から4年の歳月をかけて「提供の意思を叶えるために」をセントラルドグマとすることで、救急・集中治療・脳神経外科関連の学会と移植学会と行政がお互いを信じともに歩む環境が整ってきましたが、未だ盤石ではありません。自身のメリットやインセンティブを第一に考えた瞬間にこの信頼関係は崩れ去ります。今回の新型コロナウイルス蔓延は社会だけでなく人々の考え方・生き方を大きく変えることになるでしょう。いい意味でいえば、意識していなくても個々の行動が他者の生存に影響することを目の当たりにして、自分が自分だけで成り立っているのではなく、他者との関連で今の自分があるという因果の法則を人々が肌で感じることになりました。おそらく社会が落ち着くと臓器提供は急増すると予測しています。各委員会におかれましてはミッション遂行にご尽力いただき、会員のみなさまにおかれましては、まず元気で生き延びていただき、ともに移植医療の発展に力を合わせましょう。

2020年7月吉日