移植ことば辞典

あ行
アシドーシス
人体が適正に機能する環境を維持するために、呼吸や腎臓の働きによって血液中の酸と塩基は均衡を保ってpH7.35~7.45の範囲で安定するようになっています。血液のpHがこれよりも低くなった状態をアシドーシスといいます。肺の換気が不十分になって二酸化炭素が蓄積しておこる呼吸性アシドーシスと、糖尿病でケトン体が蓄積したり、腎機能障害で酸の排泄が不良となったりしておこる代謝性アシドーシスとがあります。逆にpHが高くなった状態をアルカローシスといいます。
アムステルダムフォーラム
アムステルダムフォーラムとは、2004年にオランダのアムステルダムで開催された生体腎移植の場合のドナー(生体腎提供者)の適応基準を制定した国際会議です。このドナー適応基準は全世界で参考にされています。特に、ドナーの腎機能について詳細に規定されており、日本においても多くの腎移植施設がこの基準を参考にしています。
アドヒアランス
免疫抑制薬の進歩により移植成績は向上しましたが、服薬を守ること(アドヒアランス:遵守)ができず免疫抑制薬を正しく内服できない患者さんは、当然ながら拒絶反応を生じます。食事療法や生活指導、病院受診を遵守すること(アドヒアランス)も大切です。慢性拒絶反応の多くがアドヒアランス不良のため生じています。本人の自己管理だけでなく医療者と家人による患者支援が、良好なアドヒアランスを長期に保つために重要です。
アルドステロン
副腎は左右の腎臓の上に位置する臓器です。その皮質でコレステロールからの合成によって分泌される副腎皮質ホルモンの1つがアルドステロンです。腎臓の尿細管に作用してナトリウムの再吸収とそれにともなう水分の再吸収を促進します。従ってアルドステロン産生腫瘍や副腎皮質過形成などで血中のアルドステロン濃度が上昇する原発性アルドステロン症では、高血圧や高ナトリウム血症がおこります。レニン-アンジオテンシン系とともに血圧調節に関わる重要なホルモンです。
アルブミン尿
健康な人の尿は清明ですが、腎臓に病気があると尿に様々な物質がでてきます。その1つがタンパクです。腎臓の病気の進行によってタンパク尿の程度が弱陽性から強陽性となります。そのタンパクの中でも分子量の小さいものをアルブミンといいますが、タンパク尿のほとんどがアルブミン尿です。尿検査で微量のアルブミンを測定することで、腎臓の病気の早期発見が診断でき、早期治療につながることになります。
アルポート症候群
慢性腎炎、難聴、白内障などの眼合併症を呈し、末期腎不全に進行することがある症候群です。南アフリカのCecil Alport医師が初めて報告したことからこの病名がつけられました。約80%の患者さんには家族歴があり、腎臓の糸球体、内耳や眼に存在する4型コラーゲンの異常により生じる、男性に多い遺伝性疾患です。現在、根治的治療法はなく、末期腎不全に進行した場合は、血液透析や腎臓移植などの腎代替療法が必要になります。
アンジオテンシン
アンギオテンシンともいいます。血圧上昇作用のある生理活性ペプチドの1つです。肝臓でつくられるアンギオテンシンノーゲンに腎臓の糸球体付近の細胞から分泌されるレニンが働いてアンギオテンシンIを生じ、さらにアンギオテンシン変換酵素が働いて活性のあるアンギオテンシン IIとなります。細動脈の平滑筋を収縮させて血圧を上昇させます。また副腎皮質に作用してアルドステロンの合成と遊離を促進させることによっても血圧の上昇がおこります。
意思表示カード
正式には臓器提供意志表示カードで、日本臓器移植ネットワークが発行しているカードです。日本の「臓器の移植に関する法律」によって、自分が死亡した際に臓器提供の意志があるかないかを事前に記載しておくカードです。一般的にはドナーカードともいいます。心臓死後あるいは脳死判定に従い脳死後に臓器を提供する意志、臓器を提供しない意志を表示することができます。最近では健康保険証、マイナンバーカードや運転免許証にも同様な意志表示記載欄があります。
イスタンブール宣言
臓器移植に関わる海外での臓器取引と臓器移植ツーリズム(渡航移植)などの問題に関して、2008年に国際移植学会が中心となってトルコのイスタンブールで開催された国際会議で採択された宣言です。この宣言の中で重要なポイントは、臓器売買の禁止・臓器移植ツーリズムの禁止、自国での臓器移植の推進(「移植が必要な患者の命は自国で救える努力をすること」)、生体ドナー(生体臓器提供者)の保護を提言していることです。
移植後ウイルス感染
臓器移植患者さんは免疫抑制薬を服用しており、リンパ球機能が低下しているため、種々のウイルス感染を発症することがあります。多くは潜伏するウイルスの再活性化によるものが多く、中でもヘルペスウイルス科(サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、EBウイルスなど)、ポリオーマウイルス科(BKウイルス、JCウイルス)によるものの発症頻度が高くなっています。ワクチンが存在すれば未感染ウィルスに対しては移植前に抗体を獲得しておく必要があります。
移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)
移植後の免疫抑制状態にある患者さんにのみ発症する制御不能なリンパ球の増殖に関係した症状の総称で、古典的リンパ腫と似ています。その多くはEBウイルス(EBV)と関連があり、移植後1年以内に発症する頻度が高いです。消化管、肝臓、リンパ節、まれに中枢神経にも起こります。リンパ節腫大、発熱、倦怠感などの症状を呈します。通常は、免疫抑制薬の減量のみで改善することが多いですが、悪性リンパ腫へ移行するものもあり、治療が難渋するので早期発見が重要です。
移植後糖尿病(PTDM)
移植後糖尿病(post transplant diabetes mellitus:PTDM)には、糖尿病のレシピエントに加え、腎移植後に新規に発症した糖尿病(移植後発症糖尿病、new-onset diabetes after transplantation:NODAT)も含まれます。腎移植後発症糖尿病も移植腎廃絶の独立した危険因子ですが、肥満や運動不足の他、移植後体重増加、ステロイド薬やカルシニューリン阻害薬などの修正可能な要因が多く、これらの糖尿病誘発性免疫抑制薬の調整と、厳格な血糖コントロールのためのチーム医療による集学的治療が重要です。
移植後貧血(PTA)
臓器移植では拒絶反応を抑えるために免疫抑制薬を使用します。その免疫抑制薬の中で代謝拮抗剤は骨髄抑制の副作用があり、骨髄での血液造成が抑えられるために貧血をきたすことがあります。また、移植臓器の中でも腎臓は赤血球の産生を促進するホルモンを産生するため、移植腎機能があまり機能しない場合は貧血をきたすことになります。また、移植後の拒絶反応、感染症、鉄欠乏状態でも貧血をきたすこともあります。
移植腎生検
移植腎生検は、移植腎機能低下時の診断ならびに長期的経過観察を目的に行われる病理学的診断法です。拒絶反応、腎炎再発、薬剤による影響、動脈硬化性病変などの診断にきわめて有用です。局所麻酔下に、超音波ガイド下または小切開により移植腎組織の一部を採取します。超音波ガイド下針生検が一般的ですが、抗血小板薬投与などにより小切開で直視下に行われる場合もあります。まれに、出血、血尿、移植腎動静脈瘻などの合併症が発生しますが、適切な治療により回復します。
インスリン
膵臓のランゲルハンス島という組織のβ細胞で作られます。腸から肝臓に流れる門脈という血管に分泌され、肝臓を経て全身に回ります。ブドウ糖を細胞内に取り込み、エネルギーの利用や貯蔵、タンパク質の合成に役立ちます。食事を取り血糖が上がるとインスリンが分泌され血糖が下がり、血糖を一定に保ちます。インスリンの分泌が低下したり、効きが悪くなったりして血糖が上がるのが糖尿病です。経口薬が不十分な場合にはインスリンを打つ治療が必要になります。
インフルエンザワクチン
臓器移植後は免疫抑制状態にあり、インフルエンザに罹患した場合、重篤化することがあります。移植後の患者さんにはインフルエンザワクチンの接種が勧められています。移植直後は免疫抑制薬の量も多くまだ安定していないため、インフルエンザワクチンの接種は移植後6ヶ月を経過してからを勧めています。また急性拒絶反応の治療中も同様です。もちろん鶏卵アレルギーの方も避けてください。
エピソード生検
移植腎生検は、採取時期により、ドナー持ち込み病変や手術時の移植腎障害の有無などを確認する移植手術時生検、血液検査や尿検査のなどの所見により移植腎機能低下が認められたときに行われるエピソード生検、これらの検査所見に変動がなくても定期的に行われるプロトコール生検などがあります。エピソード生検は、前項に掲げた拒絶反応などの鑑別診断と治療方針決定のために重要であり、移植腎機能低下診断後早期に行われる必要があります。
エリスロポエチン製剤
腎臓は尿を作る以外にも様々な働きをしています。その1つに骨髄に作用して赤血球を作らせるホルモン(エリスロポエチン)を分泌する働きがあります。慢性腎不全になるとエリスロポエチンが不足し貧血となるため、定期的にエリスロポエチン製剤を投与する必要があります。週2~3回投与するもの、2週に1回や4週に1回投与するものなど、患者さんの状態に応じて使い分けます。腎移植後であっても、エリスロポエチン分泌の回復が遅い場合などで貧血が持続する場合にも投与することがあります。