臓器移植Q&A

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移植後の妊娠、出産

移植後に妊娠しても心配ないでしょうか?

臓器移植をした後でも妊娠・出産は可能です。ただし、移植する臓器によっては妊娠・出産が危険を伴うので推奨されない場合もあります。報告では、移植後(特に腎移植)に妊娠された方の70~80%が出産されています。一般の妊娠でも15~20%の方が流産されるというデータがありますが、移植臓器の機能が落ち着いていれば、臓器移植後にも十分に元気な赤ちゃんを産むことができます。妊娠中の母体の問題として妊娠高血圧があり、妊娠中に降圧治療が必要なこともあります。また、移植後には妊娠中も免疫抑制薬を使用しますので、感染症などに注意が必要です。他の問題については一般の妊娠と変わりはありません。

妊娠中に胎児に影響を及ぼす可能性のある薬の1つは、免疫抑制薬のミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®)ですが、他の薬剤へ変更したりすることで妊娠継続は可能です。降圧薬など他の薬剤も胎児への影響の可能性はありますが、特に移植後に特有ではありません。
以上のように、臓器移植後に妊娠・出産をお考えになった場合は、服用薬の変更などが必要な場合がありますので、妊娠前から移植医、産科医に相談することが必要です。

日本においても、これからの臓器移植後の妊娠・出産をサポートするために、日本移植学会を中心として、臓器移植後の妊娠・出産ガイドライン作りを始めています。また、国立成育医療研究センターの妊娠と薬情報センターで、臓器移植後に妊娠・出産された方のデータベース登録の準備を始めています。

移植後の妊娠中には、何か問題が起こりますか?

臓器移植後の妊娠中の母体のリスクとしては、高血圧・妊娠高血圧症候群のリスクが一般より高いと報告されています。海外でのこれまでの論文をまとめた報告では、腎移植後の妊娠で、他の臓器移植後の妊娠よりも高血圧合併の頻度が高いと報告されています。妊娠中に血圧を下げる治療が必要になったり、血圧上昇が著明な場合には妊娠継続が危険である場合もあります。
また、赤ちゃんが37週よりも早く産まれてしまう早産も問題になっています。それぞれの臓器によって頻度はやや異なりますが、海外での論文をまとめた報告では、35~45%で早産(アメリカでの一般の早産の頻度は12%程度)になっています。
また、免疫抑制薬を使用することで感染症を起こすリスクが上がると考えられます。

高血圧などの合併症は妊娠前からみられる場合もありますから、妊娠前に主治医の元でしっかりと合併症の評価、治療を行うことが必要です。

免疫抑制薬などの薬による赤ちゃんへの影響はありますか?

病気や薬剤使用のない妊娠の場合であっても、全ての妊娠に際して、3%程度の奇形発生率があると報告されています。言い換えると、薬剤使用のない場合でも100妊娠に3例で奇形発生は起こりうるということです。また、一般に15~20%の妊娠で流産が起こると考えられています。

現在、臓器移植後の免疫抑制の中心として使用されているのはシクロスポリン、タクロリムスという免疫抑制薬になります。最近までの免疫抑制薬を使用しながらの妊娠・出産の報告をまとめますと、シクロスポリン、タクロリムスを使用しながらの妊娠における奇形発生率は一般の奇形発生率を大きく増加させることはないと考えられ、それまで妊娠している人には使ってはいけないとされていましたが、2018年7月から両薬剤とも注意して使ってもよいことになりました。
むしろ免疫抑制薬を適切に使用せずに妊娠中に拒絶反応などを起こすことは、母児ともに大きな影響を与えることになりますので、妊娠中も適切な投薬、治療を受けていただくことが重要です。
妊娠中の使用に関して問題のある免疫抑制薬として、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®)、ミゾリビン(ブレディニン®)があります。これらの薬を使用しながら妊娠・出産された患者さんに流産や胎児の奇形発生率が高いと報告されています。
また、一部の降圧薬(高血圧の治療薬)も胎児の腎臓などへの影響があるという報告がされています。

妊娠をお考えになった場合には、妊娠に影響がある薬の調整や変更が必要な場合があります。また、妊娠・出産管理を行う産科医にも適切な情報提供を行う必要がありますので、できるだけ妊娠前から主治医に相談するようにしてください。

免疫抑制薬などの薬による授乳での赤ちゃんへの影響はありますか?

免疫抑制薬はある程度は母乳中に移行するので授乳により赤ちゃんに免疫抑制薬が投与されてしまうため、基本的には授乳は不可としています。ただし、初乳は免疫力の観点から重要とされており、また母乳への移行が少ない免疫抑制薬は赤ちゃんへの影響が少ないので母子関係を重視して授乳を許可する施設もあるとの報告もあります。なお、子育てで何かと忙しくなるため、免疫抑制薬の服用忘れに十分に注意する必要があります。これも主治医や薬剤師と産婦人科医、小児科医に相談しましょう。

執筆:吉田 一成・湯沢 賢治

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