臓器移植Q&A

肺

移植について

肺移植とはどのようなものですか?

肺移植とは、次の条件を満たす重い肺の病気を持つ患者さんに行われる治療法で、自分の病気の肺を取り出し(片肺もしくは左右両方の肺)、提供者(脳死ドナー)の方から提供された新しい肺(片肺もしくは両肺)を移植します。それぞれ、脳死両肺移植、脳死片肺移植とよばれます。

  • 現在の医療において、肺移植の他に有効な治療法がない
  • 生命の危険が迫っている(おおむね2年生存率が50%以下)
  • 肺移植によって元気になることが期待できる

肺移植には脳死肺移植のほか、健康なドナーから肺の一部の提供を受ける、生体肺移植があります。

肺移植が必要となるのは、どのような病気でしょうか?

下記のような病気のとき、肺移植が必要となります。

  • 肺高血圧症:肺の血圧が高くなり、肺に血液が流れにくくなる病気
  • 特発性間質性肺炎:肺が硬くなり縮んでしまう病気
  • その他の間質性肺炎:特発性肺線維症以外で肺が硬くなる病気
  • 肺気腫:空気の袋である肺内の壁が壊れて空気を吐き出せなくなる病気
  • 造血幹細胞移植後肺障害:造血幹細胞移植後に起こる肺の病気
  • 肺移植手術後合併症:肺移植後の合併症による病気
  • 肺移植後移植片慢性機能不全(CLAD):肺移植後に起こる移植肺の機能不全による病気
  • その他の呼吸器疾患:上記1~7に分類されない肺の病気
    • 気管支拡張症
    • 閉塞性細気管支炎
    • じん肺
    • ランゲルハンス細胞組織球症
    • びまん性汎細気管支炎
    • サルコイドーシス
    • リンパ脈管筋腫症
    • 嚢胞性線維症
  • その他、肺・心肺移植関連学会協議会で承認する進行性肺疾患

※ここにあげた疾患であっても、病状によっては肺移植の適応とならない場合があります。
※各疾患の適応基準については、移植施設にお問い合わせください。

日本で脳死肺移植を受けるには、どのような手続きが必要ですか?

脳死肺移植を受けるためには、日本臓器移植ネットワークへの登録が必要です。脳死肺移植を受けるためのステップは以下のようになっています。

  • 移植実施施設への紹介
  • 肺移植に関する1回目のインフォームドコンセント
  • 地域内もしくは各施設内の適応検討委員会、倫理委員会での審査
  • 肺移植に関する2回目のインフォームドコンセント
  • 中央肺移植適応検討委員会での審査
  • 日本臓器移植ネットワークへの登録

このようなステップを踏んで、日本臓器移植ネットワークに登録された後、移植の順番を待つことになります。移植施設に紹介されてから日本臓器移植ネットワークへの登録が完了するまでには、約3~6カ月かかります。
脳死肺移植には片肺移植と両肺移植があり、それぞれの疾患や病状に適した術式を選択して登録します。

脳死肺移植希望者として登録待機中は、どのように生活すればよいですか?

待機中も病気の治療は継続して行われます。体調をくずさないよう心がけて、移植の機会を待ちながら生活を送ることになります。待機期間中に予防接種を受けて感染症のリスクを軽減することや、リハビリを継続することで身体の機能維持に努めることはとても大切です。待機期間はおおよそ2~3年とされています。待機中の病状の悪化によって、移植が受けられない状況になることもあります。

実際の提供時には、ドナーの血液型、体格、待機期間、クロスマッチ検査(ドナーのリンパ球とレシピエントの血清の交差試験)に基づいて、肺移植手術の候補患者が選ばれます。もし、あなたが肺移植の候補者として選ばれた場合、移植実施施設に日本臓器移植ネットワークから連絡が入ります。そして、移植実施施設よりあなたに移植手術を受ける意思があるかの確認が行われます。

脳死移植では一刻を争う迅速な行動が必要ですので、日本臓器移植ネットワークから連絡が入ってから1時間以内に移植を受ける意思があるかどうかの返事をしなくてはなりません。ですから待機中は常に連絡がとれるようにしておく必要があります。

移植手術を受ける意思がある場合は、直ちに移植施設に入院して移植の準備を始めます。入院する際の交通手段等については移植施設の指示に従ってください。

肺移植手術について教えてください。

全ての肺移植手術は全身麻酔のもとで行われます。肺移植手術では、しばしば人工心肺の補助が必要になります。肺移植手術は、熟練した移植医、呼吸器外科医、麻酔医、心臓血管外科医、循環器内科医、手術看護師、臨床工学技師など、大勢のスタッフがチームを作って実施されるものです。

肺移植手術を受けた後はどのようになりますか?

手術直後~ICU(集中治療室)

手術が終わると、ICU(集中治療室)で多くの医療スタッフによる治療を受けます。ICUで治療を受ける期間には個人差がありますが、1週間程度から、ときには1カ月間以上におよぶこともあります。手術直後は、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)を一定期間使用することもあります。手術からの回復具合に応じて食事も始まります。ICUでは、たくさんの医療機器に囲まれるなどの特殊な環境の変化によって、せん妄症状(幻覚、幻聴、落ち着きがない、時間や場所がわからない)などの精神症状を起こすことがありますが、多くの場合は一般病棟に戻ると回復します。

一般病棟~退院

一般病棟へ移った後は、本格的にリハビリが開始されます。退院してからの生活に備え、薬の飲み方などさまざまなことを勉強してもらいます。「移植」は受けたら終わりではありません。むしろ、移植後の方がさまざまな自己管理が必要になってきます。個人差はありますが、順調に回復した場合、約1~3カ月で退院となります。

日本ではどのくらいの数の肺移植を行っていますか?また治療成績について教えてください。

2019年末までに、日本で実施された脳死肺移植は526件(2020臓器移植ファクトブック参照)です。このうち、両肺移植が276件で片肺移植が250件でした。日本全体の脳死肺移植の手術成績としては、5年および10年生存率がそれぞれ71.2%、58.9%でした。国際登録での成績では、脳死肺移植の5年生存率は58.7%(2010~2017年のデータ)であり、日本の肺移植の成績は国際水準以上と考えてよいかもしれません。

生体肺移植について教えてください。

生体肺移植とは、2人(移植を受ける方が小さなお子さんの場合は1人のこともあります)の健康なご家族から、それぞれ肺の一部分を提供いただいて移植する方法です。
レシピエントの両肺を取り出し、2人の健康なドナーの右または左肺の一部(一般的には右下葉または左下葉)を移植します。提供いただいた肺の容積の合計が、レシピエントの肺の容積のおおよそ50%以上になることがひとつの目安です。提供いただいた肺の大きさがレシピエントにとって十分な大きさであるか、また大きすぎないかを検討する必要があります。熟練した移植医、呼吸器外科医などにより、慎重に生体肺移植の適応が判断されます。

2019年末までに日本で実施された生体肺移植は234件で、移植後の生存率は脳死肺移植とほぼ同じです。

執筆:大石 久・岡田 克典

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