臓器移植Q&A

心臓心臓

移植について

心臓移植とはどのような治療ですか?

心臓移植とは、亡くなった他の方から心臓の提供を受け、その心臓を自分の心臓のかわりに植え込み、心不全から脱却し、延命とQOL(生活水準)の改善を計ることを目標とする治療法です。

心臓移植の必要な病気にはどのようなものがありますか?

心臓移植でないと助からないような重症の心機能障害に陥る病気には、下記のように、重症の特発性心筋症、広範囲の心筋梗塞、高度な心筋障害を伴った心臓弁膜症、一部の先天性高度心奇形などがあります。

  • 特発性心筋症
    • 拡張型心筋症
    • 拡張相肥大型心筋症
    • 拘束型心筋症
  • 虚血性心疾患(心筋梗塞)
  • 心臓弁膜症
  • 先天性心疾患(外科的に修復のできない場合)
  • その他:心筋炎、サルコイドーシス、心臓腫瘍、薬剤性心筋障害など
特発性心筋症とはどのような病気ですか?

特発性心筋症の原因はまだ解明されていませんが、心筋が徐々に変性して線維に置きかわって力が出せなくなり、最後には全身や肺に十分な血液を送り出せなくなる病気です。時に、細菌やウイルスによる心筋炎や、遺伝的素因が原因の心筋症もあります。

  • 初めから心臓がどんどん大きくなり薄くなって、収縮する力がなくなってしまう拡張型心筋症
  • 初めは心臓の筋肉は分厚くて症状がほとんどないが、後で徐々に心筋が薄くなってきて心臓が大きくなる拡張相肥大型心筋症
  • 収縮する力には問題がないのですが、何らかの原因で心臓が拡張できない(心臓が膨らめないと、体から還ってきた血液は心臓に入れません)拘束型心筋症

の3つのタイプがあり、拡張型心筋症が最も多いタイプです。
心臓のポンプ機能の低下にともない、心臓は拡大し、肺の水分量が増加してきて、息切れを生じるようになり、放置すれば死に至る病気です。

特発性心筋症に対する治療にはどのようなものがありますか?心臓移植しかないのでしょうか?

特発性心筋症は多くの場合は進行性で根治は望めないことが多いのですが、最近、内科的治療が目覚ましく発展し、さまざまな薬剤、例えば強心薬、利尿薬、カルシウム拮抗薬、βブロッカー、アンギオテンシンⅡ阻害薬、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などの薬を服用することによって、症状が軽減し、寿命が長くなりました。これらの薬剤を心不全の病態に応じて投与すると、以前は拡張型心筋症と診断されただけで平均余命が1年といわれていたのが、現在ではこういった薬剤が効けば、90%近くの人が10年くらい生きることができるようになってきました。したがって、心筋症と診断されたから必ず心臓移植をすぐに受けなくては死んでしまうというものではありません。
しかし、これらの薬は根本的に病気を治すものではなく、いずれはこれらの薬も効かなくなることがあります。また、これらの薬を使うとかえって心不全が強くなる人もいます。このような方が心臓移植を受ける必要があるのです。

また、かつて、左心室の一部を切り取って大きくなった心臓を小さくすることで一時的に心臓の働きを良くしようとする手術、「バチスタ手術」が脚光を浴びた時期がありました。確かに効果が見られた患者さんもいたのは確かですが、後に安定した有効性が認められないとの検討結果が示されたこともあって、現在はほとんど行われていません。

薬だけでは治療が困難な段階になると、機械的補助循環装置の装着がしばしば選択されます。機械的補助循環装置には大動脈内バルーンパンピング法、経皮的心肺補助法、補助人工心臓などがあります。大動脈内バルーンパンピング法と経皮的心肺補助法は弱った心臓の機能を代替できる期間が数日から数週間と比較的短いので、この間に心臓の機能が回復しない場合は補助人工心臓を装着する方針となることがあります。心臓移植は待機期間が長いので、補助人工心臓を装着して心臓移植までの数年間を過ごす患者さんが多いのが実際のところです。
また、傷んだ心臓に骨髄や骨格筋から採取した細胞を培養したシート、あるいはiPS細胞から作製した心筋細胞シートを移植することで心機能が改善する、といった再生医療も注目されてきています。心臓移植はいつも深刻なドナー不足状態にありますから、将来的にこれらの治療が心臓移植の代替治療となることも期待されています。

どのような状態になると心臓移植が必要になりますか?

まず内科的な治療としてβ遮断薬、アンギオテンシンⅡ阻害薬などの投与を行い、次に強心薬の点滴や、考えられる手術を試み、それでも心不全状態が改善しなければ心臓移植を受ける必要があると判断されて検討にかけられます。
心臓移植の検討に並行して、補助人工心臓(VAD)を含む機械的循環補助装置を併用した治療で心機能の改善を期待する場合もあります。

心臓移植を受けられない状態はありますか?

腎または肝機能障害があると、免疫抑制薬であるシクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、エベロリムスなどの使用によって悪化することがありますので、障害が強いときにはその回復を待ってから心臓移植を行います。心臓移植を行ってもこれらの機能の回復が見込まれないときには心臓移植はできません。
活動性の消化性潰瘍や重症糖尿病は、移植後の免疫抑制薬として服用するステロイドの使用によって悪化することが多いので、それらが鎮静化してから心臓移植を行います。
エイズ、結核、ウイルス性肝炎などの感染症、悪性腫瘍(悪性腫瘍の治療を行っても5年間再発がないことを確認するまで)のある場合には心臓移植は行いません。

左心不全が強くなると、左心房の圧が高くなって、肺高血圧になります。心不全の期間が短いと、肺高血圧は移植直後に戻りますが、心不全の期間が長いとなかなか戻りません。心臓移植の際にドナーから頂く心臓は、心機能の良い心臓なわけですが、ドナーになられる人は通常肺高血圧状態にない(慣れていない)ので、急に肺動脈圧が高くなると、移植された心臓はその高い肺動脈圧に耐えられません。肺動脈圧を下げる薬剤が開発されたので心不全に陥ることは少なくなりましたが、移植後に心不全に陥ってしまった場合には、機械的補助循環装置を一時的に装着したり、別の心臓を移植したりしなければならないことがあります。そのため、あらかじめレシピエントの肺高血圧の程度を調べて、著しく高い場合には心臓移植を受けられないということになります。あるいは場合によっては、心臓と肺を同時に移植する心肺同時移植の適応となります。

最後に、心臓移植は尊い提供のご意思を示された臓器提供者(ドナー)から心臓を頂く医療です。したがって、免疫抑制薬などを正しく服用し、下痢をきたすような生ものなどの摂食を避け、その上で、適切な感染予防のための自己管理を徹底し、頂いた心臓を大切にできることが、心臓移植の必須条件となります。

日本で心臓移植を受けるにはどうしたらいいですか?

心臓移植を受けるには、日本臓器移植ネットワーク(JOT)に移植希望者として登録しなければなりません。
登録までの簡単な流れを示します。

  • 臓器の機能が著しく低下して移植が必要だと主治医が判断した場合に、移植施設に紹介されます。
  • まず、その移植施設で移植の適応かどうかを判断し(時には適応を決めるために追加の検査を行います)、移植の適応と判定されれば、患者さんに移植治療について十分な説明をし、理解してもらいます。
  • 患者さんが移植治療を受けることに同意された場合には、中央の適応評価委員会に審査を依頼し、その委員会で移植の適応と判定された場合に、移植治療を受けるかどうかを再度説明します(インフォームドコンセント)。
  • 移植治療に同意された場合に、JOTに移植希望者として登録されます。
  • なお、2015年から50名以上の心臓移植を実施した、国立循環器病研究センター、大阪大学医学部附属病院、東京大学医学部附属病院の3施設は、中央の適応評価委員会の審査を経ずに成人の患者さんを登録できるようになりました。
  • 患者さんが登録料3万円を振り込み、移植施設が登録申請用紙をJOTにFAXした時点で移植希望者として登録され、待機日数のカウントが始まります(どちらかが遅れた場合、遅れた方の手続きの日にちが登録日になりますのでご注意ください)。

※毎年登録の更新が行なわれ、更新料は5千円です。
※尚、2つ以上の臓器(たとえば、心臓と肺)の移植を希望した場合には、臓器数分の登録料と更新料が必要です。

心臓移植の待機中の生活について教えてください。

脳死移植は、脳死に至った方から善意の臓器提供によって初めて成り立つ医療です。したがって、臓器の提供があるまでは、病気の治療を受けながらの待機となります。自分に適したドナーが現れるまでの期間は、同じように待っている患者さんの人数や血液型、体格によってちがいます。2010年に改正臓器移植法が施行されて脳死臓器提供件数は増加しましたが、それ以上にJOTに登録する患者さんが増加しているので、待機期間は徐々に長くなり、2020年末現在、平均1,500日を超えました。患者さんの状態が非常に移植を急ぐ状態(緊急度1)、すなわち強心薬の持続点滴が必要か、補助人工心臓が装着されている場合は、優先的に心臓移植を受けることができます。

なお、順番が回ってきても、さまざまな理由でドナーの心臓があなたに合わない場合には、次のドナーを待たなければなりません。焦らずに待たなければなりませんが、その間にいろいろ勉強して心臓移植について十分に理解を深めることができると思います。

実際の提供時には、ドナーの血液型、体格、待機期間に基づいて心臓移植の候補者が選ばれます。もしあなたが心臓移植の候補者として選ばれた場合、移植実施施設にJOTより連絡が入ります。そして、移植実施施設よりあなたが移植手術を受ける意思があるかの確認が行われます。脳死移植では一刻を争う迅速な行動が必要ですので、JOTから連絡が入ってから1時間以内にYesかNoかの返事をしなくてはなりません。したがって、状態によって入院して待機される方、自宅で待機される方、色々ケースはありますが、ご家族も含め待機中は、夜間・休日を含めて、常に連絡がとれるようにしておいてください。また、レシピエントに選ばれた場合、直ちに入院が出来るように必要物品をまとめておくとよいでしょう。移動のための交通機関もチェックしておいてください。
2011年に体内に植え込める補助人工心臓に保険が適用され、現在は多くの場合、患者さんは自分に合ったドナーが現れるまで、自宅で待機できるようになりました。社会状況が整えば、仕事や通学ができる方もいます。このような場合でも、規則正しい生活をしなければなりません。腎臓や肝臓が悪くなったり、重度の胃潰瘍や十二指腸潰瘍、全身性の感染症などにかかったりすると心臓移植を受けられなくなります。暴飲暴食を慎み、十分に睡眠をとり、皮膚や口腔などを清潔に保つなど、健康管理に十分気を配らなければなりません。齲歯(虫歯)の治療も済ませておく必要があります。
特に補助人工心臓を装着した場合には、本人だけでは長期間安定した健康管理を続けることができないことがありますので、ご家族の方にも全面的な協力をお願いすることになります。

なお、体格の小さな子どもは、体内に補助人工心臓を装着できないので、強心薬の点滴や、体外に設置する補助人工心臓を装着して、入院しながら待機することになります。

ドナーが見つかるまでは、心臓移植を受けるにあたって問題ないかどうかを定期的に検査(胸部X線(レントゲン)検査、心電図、心エコー検査、血液検査など)します。ドナーはある日突然現れ、ドナーが見つかると、急に入院または転院することになります。そうした事態にいつでも対応できるよう、普段から心の準備が大切です。多くの場合、入院するとすぐに、いくつかの検査がありますので食事をとらずに入院します。

心臓移植後なるべく早く活動的な生活ができるように、移植前からできる範囲で適度な運動をすることが重要です。疲れを残したり、体がむくんでくるほど運動したりすると心不全が増悪しますので、かえってよくありません。運動の内容と量について、主治医に具体的に詳しく相談して指示を受けなければならないことはいうまでもありません。
心不全の程度にもよりますが、可能であれば適宜歩くようにします。しかし、息切れや、胸痛などの症状がでるようならば、歩くのをやめなければなりません。ベッド上安静の方でも、定期的に座位になったり、寝ながらでも簡単な脚の運動をしたりすることが移植後役に立ちます。脚や足首をまっすぐに伸ばしたり、曲げたりする運動や、足首を回転させる運動だけでもよいです。このようなちょっとした運動でも、血行を良くし、筋力を高めます。

移植後は免疫抑制薬を飲むために、抵抗力がおちて感染症にかかり易くなります。移植後長い間、ベッド上で動かずにいると感染の危険性がさらに高まりますので、早期に離床するように移植前から心がけておくことが大切です。

ドナーの方が現れたら、どのような手順で心臓移植が行われるのですか?

ドナーが現れJOTよりレシピエントとして選択されると、移植実施施設に連絡が入ります。主治医との連絡でレシピエントの病状が移植手術に差し支えないかどうかが確認されます。その後、レシピエント候補の患者さん、ご家族に移植実施施設から連絡をとり、移植治療を受けるかどうかの意思確認をします。
意思確認の完了後、外来通院中の患者さんや地元で待機をされている患者さんは、迅速に移植実施施設へ移動が出来るようにします。交通手段・時間、食事や内服薬についてはレシピエント移植コーディネーターが連絡をとり説明をしますので、それに従ってください。
入院中の患者さんは、主治医の指示に従って手術の準備を行います。
せっかく提供があっても、ドナーの心臓の状態によっては、移植手術に使用できない場合もあります。心臓が移植に適した状態であるかどうかは摘出時に判断しますが、最終的に提供病院から移植実施施設に搬送された後の判定となることもあります。

心臓移植の手術は全身麻酔下で行われます。手術時間は長時間に及ぶことが多く、10時間以上かかることもあります。
手術の傷は胸の真ん中を喉仏の少し下から、みぞおちまで縦に切ります。人工心肺という器械を装着して全身の循環を維持しながら、レシピエントの心臓を、心房の一部を残して取り除きます。そしてドナーの心臓を左心房、右心房、大動脈、肺動脈の順に吻合します。最近では、ほとんどの施設で、心房ではなく、上・下大静脈を直接吻合しています。

心臓移植後の入院治療はどのようなものですか?

手術後はICU(集中治療室)に入ります。手術直後はたくさんのチューブやドレーン等につながれています。やがて、人工呼吸器のチューブが抜かれます。(人工呼吸器が外れた後は、大きく深呼吸をし、咳をして痰は出していきましょう。)

手術後状態が安定すれば、2日目以降には胃管(鼻から胃に入っている管)が抜かれ、水分、流動食が開始になります。寝たまま下肢を上げる、座るなどからリハビリが始まります。腎機能の低下により人工透析を必要とする場合があります。
移植前に妊娠出産をしたり、輸血を多く受けたりすると、他人の抗原に触れた機会が多いので、移植直後に超急性拒絶反応がおこることがあります。多くは、ドナーに対する抗体をもともと持っている場合に起こります。日本ではドナーに対する抗体を持っていないかどうかをスクリーニングした上でレシピエントが選定されるので、これまでに報告例はありませんが、万が一発症すると、急激な心不全により、心臓が動かず機械的循環補助などが必要になることがあり、血漿交換や抗体を産生するBリンパ球の働きを抑える薬剤を投与すると治ることもありますが、重症な場合には、再移植をしなければ助からないこともあります。

手術後3~5日目に集中治療室から移植病棟の個室に移ります。食事もお粥から、徐々に普通食になります。生もの(果物も含む)、グレープフルーツは禁止です。立つこと、ベッドサイドでの排泄、歩行など徐々にリハビリを行っていきます。順調であれば手術後3、4日もすれば病室の中を歩行することが出来ます。

7~14日目以降には一般病棟の大部屋に移動となることもあります。この頃になると病棟内を歩行していただけます。病棟内のトイレを使用してください。
X線(レントゲン)検査などの外出時は、マスクを着用してください。
拒絶反応で心不全などの症状がでてしまうと、すでに心筋組織がかなり障害されていますので、症状が出る前に拒絶反応の有無を調べるために、移植後早期には、頻回に心筋生検(頸や太ももからカテーテルを入れて心臓の組織を採取し、顕微鏡で見る検査)を行います。初回は手術後7日目に行います。
その後、1カ月目までは週に1回程度の心筋生検があります。
免疫抑制薬の量が院外に出ても安全なレベルまで減量され、心機能が安定し体力が回復したら、退院となります。

執筆:縄田 寛・福嶌 教偉

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